美容室と見守り、美容師さんとセラピスト~役割と技術職としての共通点~《斉藤 秀之氏連載シリーズ vol.7》
医療職ではない方との話からとっても面白い話ができたので紹介したい。
先日、知り合いの美容師さんとゆっくりお話しした。COVID-19でお客さんの通う間隔が長くなり、リピート頻度は低下しているということである。更には、おしゃれな街にある有名店が昨今の社会情勢から店舗賃料の問題で、下町に進出してきて、お客さんが取られているのではないかという脅威なんだそうだ。なるほどと思った。
その美容師さんのお店は2人の美容師さんで運営している。素朴なたたずまいで、その方もお話が上手で着飾っていない。子ども連れの方からご年配まで、若者となると男女を問わずお店にいらっしゃる。特に美容の用ではなくても、ちょっと顔を出してお話ししていく街の方々も多い。そうしたことを苦にせず対応している。待ち合わせ場所にもなっているようだ。
これって必要なんじゃないかと思う。有名店やおしゃれでないお店では対応できないであろう。そこで、そのお店の方に「ちょっそ疎遠になった方に電話とかするとよいかもですね」と思わず聞いてみた。「斉藤さん、実はしてるのよ。お節介にもしちゃうんです。どうしたかって、ご年配の方に」と即座に返答された。
この自然のコミュニティこそ、地域包括ケアで求められる自助互助であり、見守りだろうと。下町のとある美容室が通いの場になっていたり、閉じこもりの前触れをチェックしできたりする機能があるかもしれない。若者対象のおしゃれな美容室ではできない、もてない役割だと思う。
そういえば、幼いころの散髪屋さんはそうだった。ご近所付き合いの延長だ。デジタル化などは否定しないが、こうしたヒトとヒトの部分は残せるなら残すに越したことはない。歯科医は歯からその人の人生がわかるといわれるが、街の美容師さんや美容室はこれからの時代にはなくてはならない社会資源かもしれない。美容室に行けるようにセラピストは生活機能を回復、維持することは、デイサービスやデイケア、訪問リハにつなげるよりも大事かもしれない。
この美容師さんと管理について、次の話もした。
美容師さんのスキル指導は難しいようだ。その場でいうことはなかなか難しい。そうした意味では、我々も同様かもしれないが、我々の場合はある程度説明をすることで、患者の利益は高まるので納得されることが少なくない。しかしながら、お金だして身だしなみを整えるのに、その場でダメ出しというか、こうしたらというようなことは難しいようだ。特に、お客さんの希望を聞き出すことなどのヘアカットなどの技術もよりも、プロフェッショナルコミュニケーションの部分を伝えることが難しいとのこと。皆職人気質だから、あの時は言うこと聞かないとということになる。なるほどなと・・・。同じだ。
そこで提案してみた。ビデオで撮影しておいて、お客さんの同意を得て、別の時にそれを見ながら指導してはどうかと。何かつながったようで、早く聞きたかったと言っていた。聞いてみると、系列の1店舗があり、社長が指名して現場を任せた管理者が上手くなくてもうどうしようもなくなったとのことで、見てほしいとヘルプに行ったが、どうしようもなかった状態だったそうだ。
技術系の管理者になる人は技術だけでは難しい。でも技術がないとさらに難しい。そう考えると、技術系職種での管理って難しい。けど面白い、奥深い。
執筆:
斉藤 秀之(さいとう ひでゆき)
(筑波大学グローバル教育院教授)