ワクチン接種に思う~予備力、潜在能力の活用を~《斉藤 秀之氏連載シリーズ vol.5》
「COVID-19」をめぐるこれまでの社会情勢の流れを大きく変える可能性のある「ワクチン接種」が世界中で広まってきている。WHOも「ゲームチェンジャー」になる可能性があると見通しをも示している。筆者もどんどん広まればよいと思っている一人である。
少し前までは、優先順位の問題、副作用のリスク、供給量の確保ができていない、打ち手がいない、などなど盛んな議論がされていた。その当時ひそかに感じていたことは「打ち手問題」である。今回はその件についてお伝えしたい。
かの山中教授は当時より、希望する国民全員に冬まで2回接種を完了するためには1日当たり100万回規模の接種の機会が必要であると発信されていました。それを受けてかどうかは計り知れませんが、菅総理が1日100万回を打ち出し、わが国でも大きくその流れができつつあるように思います。1日100万回と聞いたとき、すごい数字だなと感じました。
現在の自衛隊組織が担っている大規模接種会場の状況を想像していなかった筆者は、1日100万回接種できたら冬にはゲームチェンジできるという雰囲気はとてもよいことだと思い、どうすればできるのだろうと愚策を講じていました。医師、看護師に加え、歯科医師、薬剤師、臨床検査技師、救急救命士などが現下における違法性阻却を根拠に打ち手とする議論も1つの案であります。漏れ聞いた話では、「三角筋」「筋肉注射」ということで理学療法士にもという議論も出ていたという話もまことしやかに流れていました。
実際、しかるべき筋には打診があったという話も耳に入ったほどです。この違法性阻却による打ち手よりも、私は往診医師、訪問看護師による在宅での接種、場合によっては看護師資格を有するケアマネジャーにも在宅モニタリングのなかで接種してはどうかと考えました。自らの力で接種会場に移動できる国民の議論が優先されます。同時に、こうしたマス(集団)に該当しえない国民への議論も同時にする視点が欠けているのではと思いました。
そしてもう1つ。日赤が運営している全国の献血センターと献血バスの活用はできないのだろうかということです。令和2年度実績によると全国総数で560万人超えの献血申し込み者を吸収できる能力を持つ広域事業です。ここには医師の問診機能、打ち手となる看護師、ロジを行える事務員がそろっており、場所もあります。現存している資源としてどうなだろうかと。
一方で、輸血用血液不足の問題も承知しています。年々減少しており、2027年には不足するという予測もあります。ところが、現下において医療機関で輸血の必要な医療はどうだろうか。健康リテラシーも高まり、受診控えなどを考えると、輸血用血液事業を期限付き、あるいは、地域限定でいったん中止し、ワクチン接種に専念するという考え方で、少しでも地域に在住する国民にワクチン接種を届けることができるならば、一考に値すると常々思っていました。もちろん、事業主体である日赤への評価もマストです。それほど筆者が思いつくくらいですから、きっと国の指揮者の皆さんも議論されたとは思います。その結果、現状ですので、浅学な知恵だと諦めましたが…。
おそらく、このままワクチン接種は広がっていくと想像されますが、今後さらに打ち手問題を検討することがあった際には、これをお読みなった担当者の方には一考してほしいと思っています。
このように、新たな課題に対して新たな対策を作り出すことが優先されるような印象があるのですが、本当に現状のヒト・モノ・システムなどの予備力や潜在能力で解決できないのかを立ち止まって考えなければいけないと思います。考えた結果、現行ではバリアがあってこそ、新たな創造を起案する。こうしたことは、日常茶飯事でしょう。落ち着いて、日々の課題を考え、実践し、いざという時に大きく展開できる備えをしていきたいと常々考えます。
執筆:
斉藤 秀之(さいとう ひでゆき)
(筑波大学グローバル教育院教授)